O氏の反乱~身体と心は繋がってる~
今年2回目の宿直の日だった。熱発の利用者さんの心配をしていたがコールなく、「今夜は、穏やかに経過しそう・・・」と眠りについた頃 宿直室の電話が鳴り響く。
「あの利用者さんに何か変化が・・・」 慌てて受話器をとると、
心配していた利用者さんのフロアーではなく、別のフロアー(私担当)の職員の声。
「0さんが、救急車呼べ!って大きな声を出して、怒ってるんです。」
0さんは、身の回り事は概ねご自分でおできになり、自分の意思もしっかり持っておられる方である。腰痛をかかえておられるが、医務と連携しながらその都度対応している状況。
「行きます。」と答え、時計をみると、 0時30分!!
急いで、0さんの居室に伺うと、ベットに端座位になられ
「救急車呼べ。痛いっていってるやろ。」「救急車呼べ!」と大きな声で繰り返し叫ばれている。
「いつから痛いの?大丈夫?」と声をかけながら、痛いのはわかるが、救急車を呼ぶ状態ではないと、咄嗟に私の心は判断する。付き添ってくれていたスタッフも思いは一緒だっただろう。
バイタルを計るも、特変なく、そこから、0氏との深夜の問答が始まった。
「腰、温めてみようか?」「湿布しようか?」何を言っても、「救急車呼べ!」の繰り返し・・・
私は、心の中で、O氏の痛みを思いを受容しなくては・・・受容、受容、受容と呟いていた。
そして、「今日は宿直。Oさん、とことん付き合うで~」と、心で叫びながら、0さんと向き合おうと思った。
以前、認知症の研修の中で、接し方のポイントとして、
・自尊心を傷つけないー間違った行動や理解できない行動をとっても否定しない。
・話を合わせるー逆らったり、訂正したりしない。真剣に聞く態度を示す。
・昔話を聞く。
こんな事も いかせたら・・・
30分位経過しただろうか・・・「Oさんその姿勢しんどいやろ?ゆっくり、横になってみる?」「痛いね~辛いね~」
Oさんは、ゆっくり、自分でベットに横になられる。少し、落ち着かれ、それから、軍隊の話を30分位しただろうか・・・その頃には、笑顔も時折り、みられるようになっていた。
「Oさん、そろそろ排泄介助に行かないとあかんわ。」
Oさんは、なんと、「そら、行ってあげて。困ってるよ。わしは、自分で出来る。」
そこには、1時間前のOさんは、もう居なかった。隣の利用者さんを気遣ってくれるやさしいOさんだった。
身体と心は繋がっている。 お互いに影響しあっている。
体調が悪ければ、誰でも気分が悪くなる。また、反対に、心が満たされなければ、いつもなら我慢できる痛みも
それは、大きな痛みに変わるであろう。
「お話好きのOさんは、寂しかったんだ。ごめんね。これから、もっともっとお話する時間持たないとね。」と、
心の中で呟きながら、私は、宿直室にむかった。
若いスタッフもずっと、Oさんの深夜の問答に付き合ってくれ、きっと、私と同じ思いを心に巡らしていた事であろう。
身体と心は繋がっている。 Oさんが、再認識させてくれた事。
次の日、Oさんは、食堂で満面の笑みで他の利用者さんを気遣ってくれていた。「救急車を呼べ」と叫んでいたOさんは、どこにもいなかった。
「腰、大丈夫?」「だいぶ、ようなったわ。」
身体と心は繋がっている。 お互いに影響しあっている。